甲子園には魔物が住んでいます。
高校野球をやってきた人は「甲子園だけでなく、高校野球には魔物がいる」と感じるはずです。
大どんでん返しが起きたときの決まり文句である「甲子園の魔物」。
これぞ高校野球の面白さであり、プレイヤー・観客から見た面白さです。
それは間違いありませんが、ちょっと考えてほしいと思うこともあります。
高校野球が大好きで、指導経験もある一球たろうの、あくまでも「一高校野球ファンの見解」です。
甲子園の魔物とは?
高校野球ファンであれば、一度は「甲子園の魔物」という言葉を聞いたことがあるはずです。
甲子園と言わず、高校野球では選手でさえも「まさか」なできごとが起きます。
大本命がノーシードの高校に負ける。大逆転が起きる。そこでエラー!?…
これが高校野球の面白さでもあり、高校野球ファンは、これを目の当たりにしたとき「魔物が出た」と言います。
では、実際甲子園の魔物とは、具体的に何なのか、できるかぎり、分かる限り見てみましょう。
甲子園の魔物とは実際何なのか
大どんでん返し、下剋上、大逆転…
これらを引き起おこす原因は、考えられる限り、以下のものではないでしょうか。
- 大舞台であることのプレッシャー
- チームや個人の勢い(調子)
- ゲームそのものの流れ
- 油断やそれを突く観察眼と行動力
中学野球を指導してきた経験から、中学生はメンタル状態により、どのようにでも成績が変わることを一球たろうは知っています。
もちろん、高校性にもこのことは言えるでしょう。
勢いや流れ、プレッシャー、これらを見てみると、やはり甲子園の魔物とは、試合の流れや調子などの「目に見えない力」のことだと思います。
もちろんこの力に負けないこと、またはこの力を引き起こすことは、チームの強さであり、それを否定するつもりはありません。
ただ一つ。これだけは、「チームの強さ」としてはいかがなものか、と思うものがあります。
それが「観客からのプレッシャー」です。
甲子園の魔物の一つは「観客」
甲子園の魔物の一つに、観客の応援や手拍子・拍手、または観客の行動があると思います。
それらが感じられた試合を、二つほど紹介します。
2016年夏【東邦VS八戸学院光星】
最大7点差がついて「八戸が勝つかな」と思われたこのゲーム。
これをひっくり返した東邦は、称賛に値するし、それまでの流れでゲームの主導権を握った東邦の実力により逆転しました。
しかし、その東邦を間違いなく後押ししていたのは、甲子園の魔物である「観客」です。
圧倒的大差からジリジリと点差を詰める東邦を見て、観客は「逆転したら面白い」と思って、次第に応援します。
しまいには、球場の観客席全体がタオルを振り回して応援するようにもなりました。
周りみんなが敵に見えました…
7回から投げていた、八戸学院光星のエース桜井選手の言葉が、「観客」という甲子園の魔物怖さを物語っています。
2022年夏【大阪桐蔭VS下関国際】
9回表、下関国際が逆転。仲井くんと松本くんいい仕事するなぁ。でもまだこの点差なら大阪桐蔭サヨナラあるんじゃね?とは思う。配信でみても球場は地鳴りしてるんじゃないかと思うくらいの手拍子。
— あじ子 (@nemuinemuiii) August 28, 2022
下関国際がトリプルプレーを取って、試合も取った!
記憶にも新しいこのゲーム。ここにも「観客」という甲子園の魔物が潜んでいました。
大阪桐蔭は、これまでの甲子園でも圧倒的な力を見せつけてきた高校で、2022年の春の選抜でも優勝しています。
「一つだけプロ野球チーム混ざっているんじゃないかな?」と思えるほどの実力です。
下関国際と大阪桐蔭が相まみえると、序盤は大阪桐蔭が実力差を見せていましたが、ジリジリと点差が均衡し始めます。
そして、下関国際のトリプルプレーを皮切りに、ゲームは一気に下関国際が主導権を握りました。
間違いなく下関国際の実力ではあったと思いますが、下馬評は大阪桐蔭だったでしょう。
しかし、それをひっくり返しそうな雰囲気を感じた観客は、さらにその雰囲気を膨大なプレッシャーに変えました。
最近は9回になると負けているチームを応援するような風潮がありますので、勝っている場合は球場全体が相手に拍手を送るようになるということは常日頃から言っていました
これは、大阪桐蔭の西谷監督の談話です。
甲子園常連校であり、「最近は9回に~風潮があります」から、観客による甲子園の魔物はここ最近の流れであることがわかります。
プレッシャーに負けないだけの練習はしてきましたが、お客さんの手拍子に呑まれそうになった
こちらは、大阪桐蔭主将の星子選手の言葉です。
いくら常連校とは言っても、やはり観客からのプレッシャーはしんどく感じるようですね。
甲子園の観客をよく表現した漫画「砂の栄冠」
下で紹介している、「砂の栄冠(ヤングマガジンコミックス)」は、まさに甲子園の魔物を分かりやすく表現している漫画です。
主人公の能力もそうですが、いかに甲子園の観客を味方につけるかについても詳しく書かれています。
将来甲子園に出たい、甲子園で勝ちたいと思う人必見の漫画です。
甲子園の勝ち方は、選手個々人の能力だけではないことが良く分かります。
正直、「こんな魔物ありなん?」
西谷監督の言葉にもあるように、最近観客が逆転を望んでいる傾向が強い、と一球たろうも思っています。
そりゃ、見ている側からは、それが面白いし、高校野球の醍醐味でもありますもんね。
ただ、選手たちが引き寄せてきた流れでもない、この甲子園の魔物に、正直「これはありなん?」と感じるのも確かです。
あくまでもアマチュアスポーツ
あくまでも高校野球は、アマチュアスポーツです。
先ほど紹介した、タオルを振り回しながら応援するような、会場全体が一つのチームを応援する状況は、プロ野球でもそうありません。
この多大なプレッシャーの中、アマチュアの、一人の高校生が耐えられるでしょうか。
カウントが3ボールになっただけで、フォアボールの期待を込めた観客からの「おお~~~」に、たった一人のピッチャーが耐えられるでしょうか。
そりゃ棒玉になりますよ。そりゃフォアボールになりますよ。
そうなればなったで、ヒットまたは進塁を許し、さらに観客が逆転を期待します。
しかし、思い出してほしいのは、あくまでグラウンドにいるのはアマチュアの高校生です。
プロでも何でもありません。
ただでさえ、大舞台、僅差、終盤ともなれば、ゴロ・フライ一つに守備はプレッシャーを感じます。
そのプレッシャーが本来の甲子園の魔物です。
観客のプレッシャーは、「こうあって(逆転して)ほしい」という願望であり、その願望は野球の女神でも、魔物でもないと一球たろうは考えます。
大観衆からのプレッシャーは鍛えようがない
選手一人ひとりは、野球の技術や体力を鍛えます。
もちろん常連校ともなれば、大舞台・観客からのプレッシャーに耐えられる練習もするでしょう。
が、プレッシャーに耐える練習というのも、やったところで夏の甲子園で守備を守る選手は、かつてない観客からのプレッシャーに襲われます。
どう練習したところで、夏の甲子園の魔物以上の想定を経験することはできないのです。
にも関わらず「プレッシャーに負ける選手が悪い」は、ちょっと現状を無視しすぎている、と一球たろうは思います。
それでも現れてしまうのが甲子園の魔物
これだけ書いてきましたが、一球たろう自身、甲子園を見ていて負けているチームが追い上げだすと興奮します。
ついでに、この負けている側を応援したくなる心理を「アンダードッグ効果」と言うそうです。
野球離れが進んでいますが、何だかんだ言っても高校野球は人気であり、夏になると話題になります。
きっと今後も、観客による甲子園の魔物は現れ続けるでしょう。
しかし、もともとどちらを応援していたわけでもない観客の「逆転してほしい」というエゴで、血のにじむような努力を重ねてきた選手の最後の試合の結果を左右はしてほしくありません。
観客にそこまで思わせたチームの実力、と言えばそれまでですが。
特定の応援校がない限り、私たち一般観客は「逆転した試合」ではなく「素晴らしい試合」を観たいと思っていたはずです。
選手にとって「素晴らしい試合」になる雰囲気作りを心がけたいものです。
甲子園の魔物に物言い!批判覚悟でも考えたい甲子園の「観客」:まとめ
甲子園の魔物の一つには、「逆転してほしい」という願望を持った観客があります。
もともと、どちらを応援しているわけでなもない観客は、終盤になるとアンダードッグ効果からか、逆転を望みます。
その数万人の観客の願望がプレッシャーとなり、一人のアマチュア高校生に襲い掛かって試合結果が変わるのは、一球たろう自身「いかがなものか」と思います。
もちろんそれを引き寄せたチームの実力、と言えばそれまでですが。
特にどちらを応援しているわけでない場合、「逆転した試合」でなく「素晴らしい試合」の雰囲気をつくる一助になりたいものです。